
映画『トップガン』シリーズの魅力は、なんといっても息をのむようなドッグファイトと、主役機たちの圧倒的な格好良さにあります。続編のマーヴェリックではF18が空を舞い、その一方で「なぜ有名なF16が登場しないのか?」と疑問に思う方も多いかもしれません。
確かに、F16がなぜ採用されないのか、その理由は気になります。また、マーヴェリックでF18が主役機となった明確な理由や、逆に最新鋭のF35がなぜ使われなかったのかについても知りたいところです。
さらに、敵機として登場するSu-57は本物なのか、そして劇中で見せたありえないような第五世代戦闘機の避け方は現実のものなのか、さらには航空自衛隊のF15との意外な関係性まで、戦闘機に関する疑問は尽きません。
この記事では、そうした『トップガン』にまつわる戦闘機の「なぜ?」を、一つひとつ丁寧に解き明かしていきます。
- F-16が海軍映画に登場しない明確な理由
- F-14とF/A-18が主役機となった背景
- F-35が主役になれなかった撮影上の事情
- F-15や敵機など登場機体の詳細な設定
トップガンでF16がなぜ出ない?その理由

- F-16はアメリカ空軍の戦闘機
- 映画の舞台はアメリカ海軍
- 初代『トップガン』の主役はF-14
- マーヴェリックでF18が採用された理由
- F-18は複座型で俳優の撮影に最適
- F-14とF-18の性能や役割の違い
F-16はアメリカ空軍の戦闘機
映画『トップガン』シリーズでF-16戦闘機が登場しない最も決定的かつ単純な理由は、F-16が主に「アメリカ空軍(U.S. Air Force)」によって運用される機体だからです。
『トップガン』の物語は、一貫して「アメリカ海軍(U.S. Navy)」のパイロットたちに焦点を当てています。アメリカ軍において、海軍と空軍はそれぞれ異なる目的と任務を持つ独立した組織であり、運用する航空機も根本的に異なります。
F-16「ファイティング・ファルコン」は、1970年代に空軍の主力戦闘機として開発されました。その設計は陸上の基地からの運用を前提としています。
一方、海軍が使用する戦闘機は「艦上戦闘機」と呼ばれ、航空母艦(空母)での運用が必須条件です。空母の短い滑走路からカタパルトで射出され、着艦時にはアレスティング・ワイヤーと呼ばれるワイヤーに機体後部のフックを引っ掛けて急停止しなければなりません。
このため、海軍の機体は、空軍機とは比較にならないほど強靭な降着装置(ランディングギア)と機体フレーム構造を持つ必要があります。F-16は、このような空母運用に必要な特殊な装備や構造強度を持っていないのです。
F-16の役割と特徴
F-16は、第4世代戦闘機として非常に高い評価を受けており、軽量で優れた機動性を誇ります。また、対空戦闘だけでなく対地攻撃もこなせる多用途性から、アメリカ空軍のみならず世界中の多くの国で採用されています。
しかし、その設計思想はあくまで陸上基地からの迅速な出撃と高いコストパフォーマンスに重点が置かれています。
海軍でのF-16
例外として、アメリカ海軍は「アグレッサー部隊(仮想敵機部隊)」として、訓練で敵役を演じるために特別仕様のF-16を採用しています。これは、トップガン(海軍戦闘機兵器学校)などで、F/A-18などの海軍パイロットが異なる性能を持つ機体と戦う訓練をするためです。
しかし、これはあくまで訓練用の特殊な運用であり、マーヴェリックたち主人公側の機体としてF-16が登場することはありません。
このように、『トップガン』でF-16が主役機として飛行しないのは、F-16が空軍の戦闘機であり、海軍パイロットの物語を描く本作の舞台設定と合致しないためです。
映画の舞台はアメリカ海軍

『トップガン』シリーズの物語は、終始一貫して「アメリカ海軍(U.S. Navy)」の航空部隊、その中でも特にエリートパイロットたちが所属する世界を舞台にしています。この設定こそが、登場する戦闘機の種類を決定づける重要な要素です。
物語の中心となる「トップガン」とは、アメリカ海軍戦闘機兵器学校(NFWS: Navy Fighter Weapons School)の通称です。これは、海軍のパイロットたちに空中戦(ドッグファイト)の戦技を叩き込むための最高峰の訓練機関を指します。
主人公のピート・“マーヴェリック”・ミッチェルは海軍のパイロット(初代では大尉)であり、彼の上官、同僚、そしてライバルたちも全員がアメリカ海軍の軍人です。
彼らの活動の拠点は、陸上の基地だけではありません。アメリカ海軍の航空部隊の最大の特徴は、海上を移動する「航空母艦(空母)」を拠点として作戦を遂行することです。
初代『トップガン』では、マーヴェリックたちはインド洋に展開する空母「エンタープライズ」(実際の撮影は空母「レンジャー」などで実施)の所属として描かれています。続編の『トップガン マーヴェリック』においても、詳細は伏せられているものの、空母を拠点とした極秘ミッションが物語の中核となります。
空母運用という特殊性
空母艦載機のパイロットは、常に揺れ動く海上の非常に短い滑走路に着艦(アレスティング・ランディング)するという、極めて高度な操縦技術を要求されます。このため、使用される機体も前述の通り、カタパルト射出や着艦の衝撃に耐えうる特別な設計が施された「艦上機」でなければなりません。
なぜ海軍が舞台なのか
『トップガン』が海軍を舞台にした背景には、ベトナム戦争での戦訓があります。当時、アメリカ海軍は高性能なミサイル戦闘機を投入したにもかかわらず、北ベトナム空軍の旧式なMiG戦闘機との接近戦で予想外の苦戦を強いられました。
この反省から、ミサイル万能主義を改め、パイロットの空中戦技を再教育する必要性が高まり、「トップガン」が設立されたのです。
したがって、映画『トップガン』シリーズで描かれるのは、常に危険と隣り合わせの空母で任務をこなし、空中戦の技術を磨き続けるアメリカ海軍パイロットの世界です。そのため、登場する戦闘機もF-16のような空軍機ではなく、海軍が実際に運用する艦上戦闘機に限定されるのです。
初代『トップガン』の主役はF-14

1986年に公開され、世界的な大ヒットとなった初代『トップガン』において、主役機としてマーヴェリックと共に空を舞い、強烈な印象を残した戦闘機が「F-14トムキャット」です。
F-14は、当時のアメリカ海軍における最新鋭の艦隊防空戦闘機であり、最強の迎撃機とされていました。この機体の最大の特徴は、なんといっても「可変後退翼(かへんこうたいよく)」です。
これは、主翼の取り付け角度を飛行速度に応じて自動的に変更するシステムで、低速時には翼を広げて揚力を稼ぎ、高速時には翼を後退させて空気抵抗を減らすことを可能にしました。このメカニカルな翼の動きが、F-14のビジュアル的な魅力を高めています。
また、F-14は高性能なレーダー(AWG-9)と長射程の「AIM-54 フェニックス」ミサイルを搭載していました。これにより、空母艦隊に接近する敵の爆撃機などを、はるか遠方(最大射程は約180km以上)から迎撃できる能力を持っていました。
映画公開当時、F-14はその圧倒的な性能と未来的なデザインから、アメリカ海軍の力の象徴として絶大な人気を誇る存在だったのです。
劇中では、マーヴェリックと相棒のグースが複座(2人乗り)のF-14Aに搭乗します。前席のマーヴェリックがパイロットとして機体の操縦を行い、後席のグースは「RIO(Radar Intercept Officer:レーダー迎撃士官)」として、強力なレーダーの操作、目標の選定、兵器システムの管理といった複雑な任務を担当しました。
映画では、F-14がドッグファイトで見せる高い機動性や、訓練中に敵機(A-4)の背後を取るシーンが印象的に描かれています。
一方で、この映画はF-14の技術的な問題点もリアルに描写しています。マーヴェリック機が僚機のジェット後気流(タービュランス)に巻き込まれ、両方のエンジンが停止(フレームアウト)し、「フラットスピン(きりもみ状態)」に陥るシーンです。
これは初期型F-14のエンジンが抱えていた弱点であり、物語に深刻な転機をもたらしました。
初代『トップガン』がF-14を主役機に選んだのは、F-14が当時のアメリカ海軍の「顔」であり、その最強の性能とメカニカルな魅力こそが、エリートパイロットたちの青春と成長を描く物語に最もふさわしい戦闘機であったからです。
マーヴェリックでF18が採用された理由

続編『トップガン マーヴェリック』で主役機がF-14トムキャットから「F/A-18E/F スーパーホーネット」に変更されたのは、この機体が現代のアメリカ海軍の主力戦闘攻撃機であり、映画のリアリティを追求する上で必然の選択だったからです。
前作の公開から36年の時が経過しており、アメリカ海軍の運用機体は大きく様変わりしました。初代の主役機であったF-14トムキャットは、その高い運用コストや整備の複雑さから2006年にアメリカ海軍を退役しています。
そのため、現代の海軍パイロットであるマーヴェリックがF-14に乗り続けることは現実的ではありません。
そこで白羽の矢が立ったのが、F-14の後継機として1990年代末から配備が始まったF/A-18E/Fスーパーホーネットです。
この機体は、前作に登場したF/A-18ホーネット(通称:レガシーホーネット)の発展型であり、機体を大型化し、航続距離や兵器搭載能力を大幅に向上させたモデルです。現在、アメリカ海軍の空母航空団の中核を担う存在となっています。
F/A-18のマルチロール性能
F/A-18の「F/A」という名称は、戦闘機(Fighter)と攻撃機(Attacker)の任務を1機でこなせる「マルチロール機」であることを示しています。
F-14が主に艦隊防空を担う迎撃機であったのに対し、スーパーホーネットは空中戦(対空戦闘)から地上・海上への攻撃(対地・対艦攻撃)まで、あらゆる任務に対応できる高い汎用性を持っています。
劇中の過酷なミッションにおいて、超低空飛行によるレーダー網の突破や、ピンポイントでの目標爆撃が要求されましたが、こうした複雑な作戦の実行にF/A-18は最適な機体でした。
物語上の必然性
劇中では、ミッションの目標エリアがGPS妨害を行ってくるため、最新のステルス戦闘機F-35が持つGPS誘導兵器などが使用できないという設定が語られます。
これにより、旧来のアナログなレーザー照準を用いた精密爆撃が必要となり、その能力を持つスーパーホーネットが作戦機として選ばれるという、物語上の説得力のある理由付けもなされています。
このように、F/A-18スーパーホーネットの採用は、F-14の退役という現実世界の時間の経過と、現在の米海軍の主力機であるというリアリティ、そして作戦を遂行するための性能という、複数の理由が重なった必然的なキャスティングでした。
F-18は複座型で俳優の撮影に最適
『トップガン マーヴェリック』の制作においてF/A-18スーパーホーネットが選ばれた背景には、機体の性能だけでなく、「F/A-18F」という複座(2人乗り)モデルが存在したことが、撮影技術上の決定的な理由となりました。
本作の最大のこだわりは、CGを極力排し、俳優自身が実際に戦闘機に搭乗して強烈なG(重力加速度)を体験する「本物の飛行シーン」を撮影することでした。しかし、アメリカ国防総省の規定により、民間人である俳優が軍用機を操縦することは固く禁じられています。
この問題を解決したのが、F/A-18Fの存在です。F型は前席にパイロット、後席に兵装システム士官(WSO)が搭乗する複座機です。この機体構成を利用し、撮影では前席に本物のアメリカ海軍パイロットが座って機体を操縦し、俳優たちはその後席に乗って演技を行いました。
これにより、法的な問題をクリアしつつ、俳優たちが実際に体験するGによる顔の歪みや息遣いといった、極めて生々しいリアクションをカメラに収めることに成功したのです。
俳優が後席で体験したリアルなG
トム・クルーズをはじめとする俳優陣は、この撮影のために数ヶ月にわたる過酷な耐G訓練や水中脱出訓練を受けました。機体のコックピット内部には、ソニー製の高解像度シネマカメラが複数台(最大6台)設置され、あらゆる角度から俳優たちの迫真の表情を捉えました。
もしCGや地上のシミュレーターのみで撮影されていたら、この臨場感を生み出すことは不可能だったでしょう。
F-35では不可能な撮影方法
例えば、アメリカ海軍が導入を進めている最新鋭のステルス戦闘機F-35Cは、原則として単座(1人乗り)の機体です。
仮にF-35を主役機に選んだ場合、俳優が乗り込んで飛行シーンを撮影するという、本作の根幹となる撮影手法自体が成立しませんでした。F/A-18Fという複座機があったからこそ、私たちはあの革新的な航空アクションシーンを目撃できたのです。
したがって、F/A-18スーパーホーネットの採用は、物語上のリアリティだけでなく、トム・クルーズらが目指した「本物へのこだわり」を実現するための、制作・撮影上の唯一無二の最適解でした。
F-14とF-18の性能や役割の違い

初代『トップガン』の主役F-14トムキャットと、『マーヴェリック』の主役F/A-18スーパーホーネットは、どちらもアメリカ海軍を代表する艦上戦闘機ですが、その設計思想、性能、そして与えられた役割は大きく異なります。
F-14トムキャットは、1970年代に開発された「艦隊防空戦闘機」です。その最大の任務は、空母艦隊に脅威をもたらすソ連(当時)の爆撃機や対艦ミサイルを、超長距離から迎撃することでした。
このため、強力なレーダーと長射程のAIM-54フェニックスミサイルを搭載し、可変後退翼によってマッハ2を超える高速飛行能力を持っていました。言わば、遠距離での防衛に特化した「迎撃のスペシャリスト」です。
一方、F/A-18スーパーホーネットは1990年代末に登場した「マルチロール(多任務)戦闘攻撃機」です。その名の通り、戦闘機(F)としての空中戦能力と、攻撃機(A)としての対地・対艦攻撃能力を高レベルで両立させています。
F-14が特定の脅威に対処するために設計されたのに対し、スーパーホーネットはあらゆる任務に柔軟に対応できる「万能選手」として開発されました。操縦系統もF-14のアナログに対し、F/A-18はデジタル(フライ・バイ・ワイヤ)となり、より精密な機動が可能になっています。
両者の違いを具体的に比較すると、以下の表のようになります。
| 比較項目 | F-14 トムキャット (初代) | F/A-18 スーパーホーネット (マーヴェリック) |
|---|---|---|
| 主な任務 | 艦隊防空(迎撃機) | マルチロール(戦闘攻撃機) |
| 座席構成 | 複座のみ(パイロット + RIO) | 単座(E型)および 複座(F型) |
| 最大速度 | マッハ 2.34(約2,485 km/h) | マッハ 1.8(約1,915 km/h) |
| 主翼の機構 | 可変後退翼 | 固定翼(ストレイク装備) |
| 主な兵装 | AIM-54フェニックス(長距離空対空) | AIM-120 AMRAAM、多彩な対地・対艦兵器 |
| 米海軍の運用状況 | 2006年に全機退役 | 現役の主力機(F-35Cと併用) |
このように、F-14は冷戦時代の特定の脅威に対抗するための「一点豪華主義」的な戦闘機であったのに対し、F/A-18スーパーホーネットは、現代の多様化する任務に柔軟に対応するための「バランスの取れた優等生」と言えます。この2機の主役機の変遷は、そのままアメリカ海軍の航空戦略の変化を象徴しているのです。
トップガンでF16がなぜ除外?登場機紹介

- マーヴェリックでF35がなぜ使われない?
- F-35が不採用だったもう一つの理由:機密性
- マーヴェリックでF-14が再登場した背景
- 初代の敵機「MiG-28」は架空の存在
- 敵機Su-57は本物か?
- 驚異の第五世代戦闘機の避け方とは
- 劇中で見られるありえない・おかしい描写
- 航空自衛隊の戦闘機F15コラボ
マーヴェリックでF35がなぜ使われない?
映画『トップガン マーヴェリック』でアメリカ海軍の最新鋭ステルス戦闘機「F-35C ライトニングII」が主役機として使われなかった理由は、大きく分けて「撮影上の制約」と「物語上の設定」の二つが決定的な要因となったためです。
この作品は、CGを極力排し、俳優陣が実際に戦闘機に搭乗して撮影することに最大のこだわりがありました。しかし、F-35Cは現行の運用機が「単座(1人乗り)」のみであり、俳優が同乗できる「複座(2人乗り)」モデルが存在しません。これが制作上の最大の障壁となりました。
さらに、劇中のミッション設定もF-35の不採用を後押ししています。作戦地域では強力なGPS妨害が行われており、F-35が誇る最新のネットワークシステムやGPS誘導兵器が使用不能になるという設定でした。
このため、旧来のアナログなレーザー照準ポッドを搭載可能なF/A-18スーパーホーネットが、作戦の主役機として選ばれたのです。
撮影上の制約:俳優を乗せる座席がない
前述の通り、本作の迫力ある飛行シーンは、俳優がF/A-18F(複座型)の後席に搭乗し、G(重力加速度)を実際に受けながら演技をすることで撮影されました。
F-35Cは単座機であるため、この撮影手法を物理的に取ることができませんでした。もしF-35を主役にした場合、コックピット内のシーンはすべて地上でのシミュレーター撮影やCG合成に頼らざるを得ず、トム・クルーズが目指した「本物」の映像とはならなかったでしょう。
物語上の制約:アナログ兵器の必要性
劇中のミッションでは、敵の防衛システムをかいくぐるため、最新のステルス機ではなく、レーザー誘導による精密爆撃が可能な機体が求められました。この「GPSが使えない状況下でのアナログ攻撃」という設定が、F-35ではなくF/A-18をマーヴェリックたちが操縦する理由として、物語に説得力を持たせています。
ちなみに、F-35Cは映画の冒頭、空母のデッキ上でカメオ出演しており、その存在は意図的に示されています。
これらの理由から、『トップガン マーヴェリック』ではF-35Cは主役機として採用されず、撮影にも物語にも最適なF/A-18スーパーホーネットがその座を射止めることになりました。
F-35が不採用だったもう一つの理由:機密性

F-35Cが主役機として選ばれなかった背景には、複座型が存在しないという物理的な問題に加え、この機体が持つ「高度な機密性」と「撮影当時の運用状況」も深く関わっています。
F-35は第5世代ステルス戦闘機として、アメリカの軍事技術の粋を集めた存在です。そのステルス性能を支える機体表面のコーティングや形状はもちろん、コックピット内部のインターフェースやレーダー、電子戦システムなどは、国家の最高機密に属します。
映画の撮影、特に『マーヴェリック』のようなコックピット内部にまで複数の特殊カメラを設置する手法は、これらの機密情報を意図せず映し出してしまうリスクを伴います。アメリカ国防総省が、機密の塊であるF-35の内部を詳細に撮影することを許可したとは考えにくいです。
コックピットとシステムの機密
F-35のコックピットは、従来の計器類を排した全面タッチパネル式の大型ディスプレイと、パイロットが機体外部を透視できる特殊なヘルメットが特徴です。これらのシステムはF/A-18とは比較にならないほど機密レベルが高く、映画撮影のために内部を改造したり、詳細に公開したりすることは現実的ではありませんでした。
撮影当時の運用状況
本作の主要な撮影が行われた2018年頃、アメリカ海軍のF-35Cはまだ初期運用能力を獲得した直後、あるいはテスト運用の最終段階にありました。
F/A-18スーパーホーネットのように、第一線部隊に多数が配備され、潤沢に運用されている状況とは異なりました。そのため、ただでさえ数が少ない最新鋭機を、長期間の映画撮影に提供することは、部隊の訓練や即応体制維持の観点からも困難だったと推測されます。
このように、F-35Cは「俳優が乗れない」という点に加え、「機密が多すぎる」そして「撮影当時に数が少なかった」という複合的な理由から、主役機としての登場が見送られたのです。
マーヴェリックでF-14が再登場した背景

『トップガン マーヴェリック』のクライマックスで、初代の主役機であったF-14トムキャットが再登場した背景には、36年越しの続編としてファンへの最大限の敬意を払うと同時に、物語のテーマ性を強調する狙いがありました。
このF-14の登場は、単なるノスタルジーにとどまりません。最新鋭の第5世代戦闘機Su-57にF/A-18を撃墜され、絶体絶命となったマーヴェリックとルースターが、敵の基地で偶然にも(あるいは必然的に)発見する「唯一の脱出手段」として機能します。
この展開により、映画は最もエキサイティングな空中戦のシークエンスを迎えます。ハイテク兵器が一切使えない旧世代のF-14トムキャットという「アナログ機」で、ステルス性能と最新のアビオニクスを備えた「デジタル機」であるSu-57と渡り合うことになるのです。
初代へのリスペクトと象徴性
F-14は、マーヴェリックの青春そのものであり、亡き相棒グースとの絆を象徴する機体です。そのF-14にグースの息子であるルースターを後席(RIO)に乗せて飛ぶという展開は、過去のトラウマを乗り越え、二人が絆を取り戻す上でこれ以上ない舞台装置となりました。
物語上の説得力(イランの存在)
なぜ敵の基地にF-14があったのか、という疑問については、劇中で明確な説明はありません。しかし、史実としてF-14をアメリカ以外で唯一導入した国がイランです。
イラン空軍は(公式には)現在もF-14を運用しているとされ、映画の敵国がイラン、あるいはイランから機体を入手した国家であることを強く示唆しています。これにより、フィクションながらも最低限のリアリティを担保しています。
映画のテーマ「操縦士の技量」の集大成
F-14での戦闘は、レーダーも誘導兵器も使えない(あるいは使い方がわからない)状況下で、機関砲と純粋な操縦技術だけで最新鋭機に立ち向かうという、究極のドッグファイトを描き出しました。
これは、「機体(飛行機)が重要なのではない、それ(It)を操るパイロットこそが重要だ」という、作品全体を貫くテーマを最高潮の形で証明するシーンとなりました。
このようにF-14の再登場は、ファンを喜ばせる演出であると同時に、物語のクライマックスとテーマ性を完璧に融合させるための、極めて計算された脚本上の必然でした。
初代の敵機「MiG-28」は架空の存在
1986年公開の初代『トップガン』でマーヴェリックたちの前に立ちはだかった敵機「MiG-28」は、実在しない架空の戦闘機です。
この戦闘機が架空のものである理由は、映画が制作された1980年代の時代背景にあります。当時は米ソ冷戦の真っ只中であり、敵役として想定されるソビエト連邦(当時)から、MiG-29やSu-27といった本物の最新鋭戦闘機を撮影のために借り受けることは到底不可能でした。
そこで制作陣は、観客に「ソ連製の未知の新型機」という印象を与えるため、架空の機体を生み出す必要があったのです。
MiG-28の「正体」
劇中でMiG-28として登場した機体の「正体」は、アメリカのノースロップ社が開発した「F-5E/F タイガーII」という戦闘機です。このF-5は、小型・軽量で高い運動性を持ち、外観がどことなく東側諸国の戦闘機に似ているという特徴がありました。
F-5が選ばれた理由
F-5がこの役に選ばれたのは、単に外見が似ていたからだけではありません。当時、アメリカ海軍や空軍では、まさに『トップガン』の訓練(ACM:空中戦闘機動)において、敵機役を演じる「アグレッサー(仮想敵機)部隊」がF-5を運用していました。
つまり、マーヴェリックたちが訓練で戦っている機体そのものであり、撮影に協力したアメリカ海軍にとっても非常に都合の良い機体だったのです。映画では、このF-5を不気味な黒一色に塗装し、国籍不明の赤い星のマークを描くことで、謎に満ちた強力な敵機というイメージを完璧に作り上げました。
このように、MiG-28は実在しませんが、アメリカ海軍の訓練で実際に「敵」として使われていたF-5E/FタイガーIIを起用することで、映画のリアリティと迫力を高めることに成功したのです。
敵機Su-57は本物か?

『トップガン マーヴェリック』で敵機として登場する「第5世代戦闘機」は、ロシアが開発した実在のステルス戦闘機「Su-57(スホーイ57)」がモデルであることは間違いありません。ただし、映画に登場する機体そのものは、本物のSu-57を撮影したものではありません。
本作では、敵の国籍や名称が一切明かされませんが、登場する戦闘機のデザインは、Su-57の特徴である双発エンジン、ステルス性を意識した機体形状、特徴的なカナード翼などを忠実に再現しています。
初代のMiG-28が完全な架空機だったのに対し、『マーヴェリック』では実在する最新鋭機をモデルにすることで、現代の脅威としてのリアリティを追求しています。
映画での機体はCGI
もちろん、ロシアの最新鋭ステルス戦闘機である本物のSu-57を映画撮影のために借りることは不可能です。そのため、劇中でマーヴェリックたちと激しい空中戦を繰り広げる敵機は、すべてCGI(コンピュータグラフィックス)によって精巧に描かれています。
制作チームは、公開されているSu-57の映像や資料を徹底的に研究し、その飛行特性や機動をリアルにシミュレートすることで、F/A-18やF-14と戦うシーンを作り上げました。
なぜSu-57が選ばれたか
Su-57は、アメリカのF-22やF-35に対抗するために開発された、ロシア初の第5世代戦闘機です。その高い機動性能やステルス性は、アメリカ海軍にとって現実的な脅威となり得る存在です。
この実在する強力な機体を敵役として設定することで、マーヴェリックたちが挑むミッションの困難さと、彼らが直面する危険度を観客に明確に伝える効果がありました。
結論として、『マーヴェリック』に登場する敵機は「Su-57をモデルにしたCGI」であり、本物ではありません。しかし、実在の機体をモデルにすることで、初代とは異なる現代のリアルな空中戦を描き出すことに成功しています。
驚異の第五世代戦闘機の避け方とは
『トップガン マーヴェリック』で描かれた、敵の第5世代戦闘機(Su-57)がミサイルを回避する驚異的な機動は、「クルビット(Kulbit)」と呼ばれる実在の曲技飛行(アクロバット)をベースにしたものです。ただし、これが実際の戦闘で有効な回避方法であるかは、専門家の間でも意見が分かれます。
劇中では、マーヴェリックが発射したミサイルに対し、敵機が機首を急激に引き上げて空中で後方宙返りのような動きを見せ、ミサイルの追尾を振り切るシーンが描かれます。これは、機体が失速状態に陥っても操縦を可能にする「ポストストール・マニューバ(失速後機動)」の一種です。
推力偏向ノズルによる超機動
Su-57やその前身であるSu-35といったロシア製の戦闘機は、「推力偏向ノズル」という特殊な装備を持っています。これは、エンジンの噴射口の向きを物理的に変えることで、主翼の揚力だけでは不可能な、常識外れの機動(超機動)を可能にする技術です。映画で描かれたクルビットやコブラといった機動は、この技術によって実現されています。
実戦での有効性という疑問点
これらの機動は、航空ショーなどでは機体の圧倒的な運動性能をアピールするために披露されますが、実戦での有効性については懐疑的な見方が多いです。なぜなら、クルビットのような機動を行うと、機体の速度が急激に失われる(エネルギーを失う)からです。
一時的にミサイルを回避できたとしても、速度を失った戦闘機は、次の瞬間には敵の機関砲や別のミサイルにとって格好の的(いい的)になってしまいます。実際の空中戦では、速度(エネルギー)をいかに維持するかが生死を分けるため、このような「曲芸飛行」は自殺行為とも言われかねません。
したがって、映画で描かれた驚異の避け方は、第5世代戦闘機の持つポテンシャルを視覚的に分かりやすく表現するための「映画的演出」と言えます。実戦のドッグファイトとは異なりますが、観客に敵の異常な強さと絶望感を植え付ける上で、非常に効果的なシーンとなりました。
劇中で見られるありえない・おかしい描写
『トップガン』シリーズは、アメリカ海軍の全面的な協力のもとで撮影され、その圧倒的なリアリティで知られています。しかし、あくまでもエンターテイメント作品として、物語を劇的に盛り上げるための「ありえない」あるいは「おかしい」と指摘されるフィクションの描写も意図的に含まれています。
これらの描写は、リアリティの欠如というよりも、映画としてのカタルシスやスペクタクルを優先した結果です。
例えば、マーヴェリックの無鉄砲な性格や規則を無視する行動は、現実の海軍パイロットであれば即座に飛行資格を剥奪される(クビになる)可能性が非常に高いものです。しかし、彼の型破りなキャラクターこそが、物語の推進力となっています。
1. マーヴェリックによるルースターの入学妨害
『トップガン マーヴェリック』で語られる、マーヴェリックがルースターの亡き母の遺志を汲み、彼のアメリカ海軍兵学校への入学願書を引き抜いて妨害したというエピソードです。
現実には、海軍大佐という階級であっても、士官学校の選抜プロセスに一個人が介入し、特定の人物の入学を阻止することは制度上「ありえない」とされています。これは、二人の間の確執を深く描くための、物語上の重要な創作(フィクション)です。
2. 友軍トマホークミサイルとの並走
『マーヴェリック』のクライマックスミッションにおいて、F/A-18が目標に向かう際、空母から発射された友軍の巡航ミサイル「トマホーク」と並んで飛行するシーンがあります。
視覚的には非常に印象的ですが、現実の作戦行動では、衝突のリスクや、ミサイルと戦闘機が密集することで敵のレーダーに探知されやすくなる危険性があるため、このような編隊飛行は通常行われません。
3. 奇跡的すぎる空中戦の戦果
これも『マーヴェリック』の描写ですが、一つのミッション中に、第4.5世代機であるF/A-18や、さらには旧世代のF-14トムキャットで、最新鋭の第5世代戦闘機Su-57を2機も撃墜するという戦果です。
これは、マーヴェリックの超人的な操縦技術と「機体ではなくパイロットの腕が重要」というテーマを強調するものですが、現実の戦闘では「奇跡的」と言わざるを得ないほどの圧倒的な不利を覆しています。
このように、『トップガン』シリーズは本物の戦闘機や空母を使ったリアリティを追求する一方で、観客の心を掴むためのドラマチックな「ありえない」描写を巧みに織り交ぜています。このバランス感覚こそが、本作を不朽の名作たらしめている理由の一つです。
航空自衛隊の戦闘機F15コラボ

映画『トップガン』シリーズの本編には、アメリカ空軍のF-16だけでなく、日本の航空自衛隊(JASDF)が運用する主力戦闘機「F-15 イーグル」も登場しません。
しかし、『トップガン マーヴェリック』の公開に際して、このF-15は非常に特別な形で映画とコラボレーションを果たし、日本の航空ファンの間で大きな話題となりました。
このコラボレーションが実現した背景には、F-15が現在の航空自衛隊における主力戦闘機であり、まさに「日本のトップガン」とも言える精鋭パイロットたちが搭乗する機体であることが挙げられます。
映画がアメリカ海軍のトップパイロットを描くのに対し、F-15は日本の空を守るトップパイロットの象徴であるため、作品のテーマと強く共鳴したのです。
1. マーヴェリック仕様の特別塗装機
コラボレーションの目玉として、航空自衛隊のF-15J戦闘機(小松基地所属・第306飛行隊)に、『トップガン マーヴェリック』をテーマにした特別塗装が施されました。
このデザインは、トム・クルーズ演じるマーヴェリックのヘルメットや、彼が搭乗するF/A-18の機体に見られる特徴的な青いラインを模したもので、垂直尾翼には「TOP GUN」のロゴとマーヴェリックのコールサインが描かれました。
2. 小松基地航空祭での披露
この特別塗装機は、2022年に開催された小松基地の航空祭などで一般に披露され、多くの観客を魅了しました。映画の世界から飛び出してきたかのようなF-15の姿は、映画ファンと航空ファンの両方にとって忘れられない光景となりました。
3. 飛行教導群(アグレッサー)との関連
F-15は、航空自衛隊の中でも「飛行教導群(アグレッサー部隊)」という、まさに日本の「トップガン」に相当する精鋭部隊でも運用されています。彼らは全国の戦闘機部隊を巡り、敵役として訓練(空中戦)を行う教官パイロット集団です。この点でも、F-15と『トップガン』という作品の親和性は非常に高いものがあります。
このように、F-15戦闘機は映画本編には登場しないものの、航空自衛隊との公式コラボレーションという形で『トップガン』の世界観と強く結びつきました。これは、F-15が今なお日本の防空を支える重要な戦闘機であることの証左と言えるでしょう。
映画トップガンにF16がなぜ出ないかの理由を総括
映画『トップガン』でF16がなぜ使われないかというと、F16は空軍の戦闘機だからです。この物語はアメリカ海軍が舞台であり、空母での運用を前提としたF-14(初代)やF/A-18(続編)が主役機として登場します。F-16は海軍の空母運用に必要な強度や装備を持っていません。
記事のポイントをまとめます。
- F-16が登場しない理由は空軍の機体だからだ
- 『トップガン』シリーズの舞台はアメリカ海軍だ
- 海軍機は空母運用のための頑丈な構造が必須だ
- F-16は空母離着艦に必要な強度や装備を持たない
- 初代『トップガン』の主役機はF-14トムキャットだ
- F-14は米海軍を2006年に退役済みだ
- 続編の主役機は現役のF/A-18スーパーホーネットだ
- F/A-18F(複座型)が俳優搭乗のリアルな撮影を実現した
- F-35Cは単座型で機密性が高く主役にならなかった
- 劇中にはGPS妨害でF-35が使えない設定もある
- F-14再登場はイランの存在が背景にある
- 初代敵機「MiG-28」は実在しない架空機だ
- MiG-28の正体は米海軍アグレッサー機のF-5Eだ
- 続編敵機Su-57は実在機モデルだがCGIだ
- 空自F-15が『マーヴェリック』仕様の特別塗装でコラボした

